 ポートアクセス法 心臓手術 傷跡小さく

 ◆胸骨切らず、入院短期間
大阪府の女性Aさん(21)は、不整脈や息切れが続くため、近所の病院を受診した。その結果、心臓内部に穴があいている「心房中隔欠損症」と診断された。通常の心臓手術では胸部に25センチもの傷がつく。「それでは水着や開襟シャツも着られない」とインターネットで調べ、5センチの切開で済む「ポートアクセス法」を知った。一昨年、この手術を受けたところ、3日後に歩いて退院でき、今は「傷跡もほとんど目立たなくなった」という。
心臓の中を治療する、心房中隔欠損症や、弁を修復する手術では通常、のど元からみぞおちまで約25センチ、胸骨を縦に切開する。この方法ならば心臓全体が見えて、手術はやりやすい。しかし、骨を大きく切るため治りが遅く、入院が平均3週間。しかも大きな傷が残る欠点があった。
そこで、90年代後半から米国を中心に世界中に普及し始めたのが、切開をできるだけ小さく抑える手術だ。胸骨の下方2分の1だけを切開し、10―12センチの切り口だけで同じ手術ができるようになった。
これをもう一歩進め、骨をまったく切らずに、5センチの切開だけで手術するのが「ポートアクセス法」だ。
「骨を切ることは、患者にとっては骨折と同じ。皮膚の切開だけで済めば、患者負担はかなり軽くなる」と、慶応大学外科教授の四津良平さんは語る。
この方法は、男性なら右乳首の少し下、おしゃれに気を使う女性なら乳房の下側の、見えにくい部分の皮膚を切る。上から4本目と5本目のろっ骨のすき間を利用して、5センチほどの切れ目(ポート)を開ける。ここから、先端に風船をつけた特殊な管を入れて、心臓につながる大動脈の中まで差し込み、風船を広げて大動脈を遮断。血流を止める一方で、同じ管に開けた穴から心臓停止液を心臓に流し、心臓の動きを完全に止めて、心臓の修復手術をする。
小さな切り口からすべての器具を操るこの手術には技術の修練が必要で、どの病院でもできるわけではないが、「訓練を積めば、従来の方法と変わらない質の治療ができるようになる」(四津さん)。
慶応大学病院では、1998年からこの手術を開始。入院日数は3―7日間で、「美容のため」という女性患者から、「仕事を休みたくない」という会社員まで、約100件行っている。手術後の経過は順調で、これまで再入院するような症例は起きていない。
しかし、どの患者でも手術を受けられるわけではない。
手術中に心臓に異常が発生するなど、緊急事態時には、胸を切り開いて心臓マッサージなどの対処が必要になる。循環器疾患のある高齢者や、重い糖尿病などの基礎疾患を持つ患者は手術対象から外されている。また手術中、太ももの血管に人工心肺装置を取り付けるので、血管が細い小学生以下の子供も対象外だ。
「この手術ができるようになった背景には、人工心肺装置や、診断技術の進歩がある。患者の希望も多いので、多くの医療機関に普及させたい」と四津さんは話している。(科学部 本間 雅江)
| 小さな傷口ですむ心臓手術を行っている主な病院 |
| 札幌医大(札幌市中央区) |
(電)011・611・2111 |
| 東北大(仙台市青葉区) |
(電)022・717・7000 |
| 埼玉医大(埼玉県毛呂山町) |
(電)049・276・1111 |
| 独協医大越谷病院(埼玉県越谷市) |
(電)048・965・1111 |
| 大阪大(大阪府吹田市) |
(電)06・6879・5111 |
| 国立循環器病センター(大阪府吹田市) |
(電)06・6833・5012 |
| 国立呉医療センター(広島県呉市) |
(電)0823・22・3111 |
慶応大(東京都新宿区) (ポートアクセス法を行っているのは慶応大だけ) |
(電)03・3353・1211 | | (2003年6月10日)

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