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卵管不妊は原因の頻度が高いにもかかわらず、それ自体の病態も完全に把握し、治療することは構造の特殊性から困難と考えられてきました。しかし、体外受精やカテーテルや内視鏡の新分野が開拓され、卵管不妊自体の有効な治療が行えるようになったことから、近年の卵管不妊に対する治療指針は大幅な変化を遂げてきました。卵管通過障害に対して、新たに卵管鏡下卵管形成術(falloposcopic tuboplasty: FT)が開発され、高い治療効果を上げています。また、健康保険の適用がなされている治療です。

 

卵管機能と不妊

卵管は妊娠成立にかかわる重要な機能を有しており、その病態は不妊につながります。また、女性側の不妊原因のなかで卵管不妊は最も頻度が高く、その病態も多様であることが知られています。卵巣から排卵する卵子を卵管の端の采部で回収し、蠕動運動することで、卵子を子宮側へ運搬していく一方で、精子は子宮側から卵管を逆行し、膨大部での受精、そして約1週間にわたる胚成長のための生殖環境を提供するという配偶子の出会いと成長の場をつかさどる重要な環境因子としての役割を担っています。

この卵管の機能を大別すると、1)精子の通過路、2)卵子のpick up、3)受精環境、4)初期胚の成育環境、5)胚の輸送機能、6)子宮への影響、に分けることができます。この機能病態は不妊の原因となります。とくに卵管外面の癒着による卵管の障害などに対しては開腹手術や腹腔鏡手術が行われてきました。それに対して、卵管内腔面の癒着による閉鎖、狭窄などの通過障害に対する治療は、顕微鏡下手術などの一部の技術が存在しましたが、高い有効性が得られたとはいえず、代わりの治療法として体外受精が発達普及しました。

 

<卵管鏡下卵管形成システムの開発と原理

卵管検査によって卵管通過性に異常が認められた際に、開腹手術による卵管の端々吻合や卵管開口術が唯一の選択肢として古くから行われてきました。しかし、多発性に病変がある場合や治療後の再度閉塞が生じた場合への対応は困難で、また、患者侵襲も少なくありません。

治療成績に関しても顕著な向上は得られてきませんでした。卵管が細い管状の臓器であることから治療が難しく、特殊技術である顕微鏡手術が行われてきた歴史があります。その理由として、とくに病変部位のなかでも間質部など治療が難しい部位もあります。実施の閉塞部位は間質部に最も多く、その治療が最も困難な場所であることからも新たな治療法が切望されていました。

これに対して、子宮側からアプローチする各種のカテーテル治療法が開拓され、そのなかで最も治療効果の高い卵管鏡下に特殊なカテーテルを挿入することによって閉鎖部分を開口するFT法が開発されました。この方法は卵管のほぼ全域にわたる卵管通過障害に適応し、健康保険の適用にもなっています。技術の修得が必要なため、どこの施設でも行われている治療法ではありませんが、卵管内腔病変のために発生した卵管通過障害に対して治療効果は極めて高い治療法です。

この治療法に用いられるFTカテーテルシステムと呼ばれる機器の基本的構造は、円筒状の伸長性バルーンカテーテルとその内側に挿入する外径0.6mmのフレキシブルな卵管鏡(falloposcope)から構成され、卵管内の観察と卵管通過障害の治療を同時に行うことができる方法です。

このバルーンカテーテルは、卵管内を伸長して卵管鏡を安全に卵管内へ導くとともに、閉塞を解除する治療法です。カテーテルの構造は内筒・外筒が内部でバルーン構造を介してつながっており、卵管形成の際にはカテーテルの内筒を押し込むことでバルーン部分が内側より卵管内へ前進し、卵管内腔面を傷つけることなく前進できる構造になっています(図1)。低侵襲性の低い方法で、安全に軽い静脈麻酔の下に操作することができます。

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<FT法による治療の実際 >

治療時期は月経のもっとも多い時期には余り望ましくありませんが、その他にいつでも治療が可能です。但し、望ましくは子宮内膜が薄い月経終了後から排卵前までが治療しやすい時期です。

治療の方法は、まず、経頸管的にFTカテーテルを子宮腔内に挿入した後、治療する側の卵管子宮口にカテーテル先端を押し付け、カテーテル外筒を専用腟鏡(スペキュラム)と単鉤鉗子(タナキュラム)に固定したうえで、カテーテル外筒の先端から内側に押し込められているバルーンカテーテル部分を1目盛りずつ前進させます。卵管子宮口から閉塞して卵管子宮口を確認できないときでも子宮卵管角部の陥凹部にカテーテル先端を当ててバルーン前進操作をすることで開口することができます。

バルーンの拡張内圧は、バルーン前進時には6〜9気圧の高い圧力に加圧して強い力で卵管内腔を押し拡げながら前進させます。一方、卵管鏡を動かす際は2気圧に調整してバルーンとスコープの間の抵抗を減少させ、さらに灌流して滑りを良くして操作を行います。卵管内腔の観察はカテーテル前進時に断続的に行うことも可能です。主に前進終了後カテーテルを後退させる際に連続的に観察します。

一般的には子宮の入口(頸管)からカテーテル本体を挿入して卵管にバルーンを伸ばしていきますが、腹腔鏡手術の際に腹壁側からカテーテルを挿入し、卵管末端の卵管采から子宮側への逆方向にバルーンを挿入していく方法もあります。半日の病院滞在で治療が可能で、合併症も現在はほとんどありません。腹腔鏡を行うべき適応は、バルーンカテーテルの全長が10cmであるため、卵管末端の病変に対応できないことが予測されるときで、具体的には卵管末梢側の病変や卵管周囲の癒着病変が疑わしい場合です。この際は全身麻酔となりますので、日帰り手術はできません。

 

<FT法の治療成績 >

卵管通過障害に対して、従来、行われてきたマイクロサージャリーを含めた卵管手術や通気・通水法などの検査を兼ねた治療法に比較すると、極めて高い通過性回復成績が実証されています。子宮卵管造影によって両側の卵管閉塞と診断され、次いで、子宮鏡下選択的卵管通水を行って、攣縮による機能的卵管閉塞を除外した器質的癒着による卵管内腔閉塞患者に対してFT法による卵管通過性回復成績は、卵管ベースで97%に及びます。このうち術後1〜3ヶ月後の子宮卵管造影による再閉塞は約10%あります。この際は再度治療を受けることができます。FT法による治療時に卵管病変部位は卵管近位部に多く、そのなかでも特に間質部に最も多く75%を占めています。次いで、峡部が16%、残りが遠位部の膨大部病変の9%です。また、単一の病変部位のみならず、多発性病変を伴う例が多く存在します。これらの病変も同時に治療することができるのも長所の一つです。これまでの治療実績から一側の卵管に病変が存在する場合、対側卵管にも同様の部位に同様の病変が存在することが多いことや、腹腔鏡下手術を同時に行った例では卵管留水症などの卵管遠位部病変を伴う場合に、卵管采癒着や卵管膨大部癒着など腹腔内癒着も多く存在することが明らかになりました。加えて、卵管内腔の癒着病変は、間質部・峡部は再生・修復されますが、膨大部に存在する卵管ひだ構造は再生しないことから、妊孕性回復成績の面から遠位部病変は近位部病変に比較して、不妊病態は重いと考えられます。

妊娠についての成績は治療後2年間以上の経過症例の統計から約30%に妊娠が成立し、平均妊娠成立までの期間は、7.8ヶ月でした。また、妊娠例のなかで1年以内の経過で妊娠した例は87%でした。この方法で、卵管内腔病態の直接的な観察ができるようになったことから、卵管の妊孕性を評価が可能となり、卵管不妊の治療選択を決定するうえで、有用な情報と考えられるようになりました。治療後の経過のなかで、主として病変部位別の卵管病態による判断と術後経過期間に基づいて、体外受精や腹腔鏡下手術など他の選択を検討することが望ましいと考えられます。

 

<卵管鏡による卵管内腔の観察所見 >

卵管鏡の本来の目的は、卵管内腔病態の観察ですが、従来の機器では明らかにされなかった卵管内腔全域を観察することが可能となり、卵管機能を直視下に評価することができるようになりました。

卵管内腔の所見を評価する際に観察すべき評価項目として内腔癒着とその性質、卵管の拡張、卵管ひだの構造、血管・炎症像、そして病変の部位と数、拡がりなどを評価することができます。

  1. 卵管子宮口・卵管間質部
    この部分は子宮の壁を貫く卵管の部分で通常卵管子宮口は円孔状に観察されます。卵管間質部から閉鎖している場合は、治療前には卵管子宮口が判別不明なことがありますが、開口後には必ず観察ができます。

  2. 卵管峡部
    峡部は子宮側から約2。5〜5cmほどの距離に多くが位置しますが、峡部内腔の観察断面は円形で、内膜の肥厚やひだ構造はありません。
    卵管内腔の癒着部分を剥離後、内腔を観察すると、剥離して遊離した癒着組織の剥離断片が灌流によってはためく状態が観察されます。卵管峡部の内腔癒着のうち、子宮卵管造影法で通過性が認められる部位であっても内腔が部分的に癒着して生じた卵管狭窄を観察することがあり、これを剥離する前の卵管鏡の前進時に観察することがあるのが特徴です(写真)。色調は、正常卵管峡部内腔が淡桃色であるのに対し、癒着組織は白色ないしは黄白色をしています。

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  3. 卵管膨大部
    膨大部の内腔は極めて特徴的であり、卵管内腔は他の部位よりも拡大し、壁には卵管ひだが密に並び、灌流に対して柔軟に波動状の動きを示します。色調は淡桃色で、時に血管像を観察することがあります。
    卵管留水症では膨大部の内腔は拡張し、暗い視野として観察されることが多いのが特徴です。異常所見として卵管ひだが部分的ないしは全体に硬化したり、消失や菲薄化がみられることがあります。治療後の内腔所見のうち、間質部、峡部の内腔は再生されますが、膨大部病変の卵管ひだ構造は再生されません。

 

<卵管不妊の新たな治療指針 >

卵管因子が発見された際に体外受精が広く普及しましたが、卵管不妊に対する新たな技術開発によって、図2に示すように新たな卵管不妊の治療指針が示されるようになりました。これらの治療選択は個々に条件や事情が異なるため、フレキシブルに対応しています。担当医にご相談下さい

 

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担当医:末岡 浩