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体外受精

体外受精(in vitro fertilization, IVF)と胚移植(embryo transfer, ET)


<体外受精の概要と排卵誘発>

体外受精とは、未受精卵を体外に取り出し、精子と媒精して受精させ、培養する技術です。未受精卵を採取するために、静脈麻酔(鎮痛剤・鎮静剤投与)下、経腟超音波を用いて、卵巣を穿刺します。一方、精子調整には、よりより精子を選別するためにスイムアップ法を用いています。受精後の胚は、一定期間(2〜5日間)培養した後、経腟的に子宮に戻します。これを胚移植と言います。

自然周期では、ひとつの卵胞(首席卵胞)が選ばれ成熟卵胞となり、そして排卵します。しかし、体外受精周期では、できるだけ多数の成熟卵胞を得て、それらから多数の卵子を得ることが重要となります。そこで、本来のホルモン動態を抑制し、排卵誘発剤を投与することにより、多数の成熟卵胞を発育させる方法が取られます。具体的には、月経の1週間以上前より、スプレキュアやナサニールなどのGn-RHアナログ製剤の点鼻薬を始めます。そして、月経3日目(あるいは〜14日目頃)より、FSH/hMG製剤の注射を開始し、卵胞発育を促します。FSH/hMG製剤の注射は採卵3日前まで連日行います。Gn-RHアナログには、首席卵胞が選ばれる過程をブロックして多数の卵胞が育つよう準備する作用の他に、LHというホルモンが分泌されるのを防ぐ作用があります。体外受精の前にLHが分泌されてしまうと、自然に排卵してしまったり、排卵してしまわないまでも卵の質が悪くなってしまったりします。それらを防ぐために、Gn-RHアナログは採卵直前まで続けます。このようなGn-RHアナログの使い方をロング法と呼びます

8 cell
受精卵(8細胞)

一方、Gn-RHアナログ製剤の点鼻を月経初日から開始し、FSH/hMG製剤の注射を月経3日目より開始する方法を、ショート法と呼びます。この方法では、首席卵胞が選ばれる過程をブロックする効果が小さいため、成熟卵

胞数が少なくなってしまう傾向がある反面、内因性のホルモンを抑制する期間が短いため、FSH/hMG製剤の必要量が少なくてすむというメリットがあります

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また、最近では、Gn-RHアナログ製剤ではなく、Gn-RHアンタゴニスト製剤を用いることもあります。この場合、前周期低温期に、ピル(高温期のホルモン状態を作るホルモン剤:卵胞ホルモンと黄体ホルモンの合剤)を服用していただき、服用完了数日後から始まる月経の3日目より、FSH/hMG製剤の注射を開始します。そして、経腟超音波にて中卵胞の発育を認めた頃から、Gn-RHアンタゴニスト製剤の注射を開始し、採卵3日前まで連日使用します。Gn-RHアンタゴニスト製剤は、アゴニストと同様、LHの分泌を抑え、排卵が採卵前に起こらないようにします。また、内因性のホルモンを抑制する期間が短いので、FSH/hMG製剤の必要量も少なくてすむというメリットがあります。

さらに、Gn-RHアゴニストあるいはアンタゴニスト製剤を全く使用せず、自然周期あるいはクロミッド・hMG製剤を利用する場合もあります。この場合、Gn-RHアゴニストあるいはアンタゴニスト製剤などの身体的・経済的負担は少なくてすみますが、得られる成熟卵胞数は少なく、また採卵前に排卵してしまう危険も大きくなります。当院では、主にロング法およびショート法で成績が不良な方やhMGに対する反応性が不良な方に試みています。

<体外受精の適応と実際>

そもそも、体外受精は、1978年にイギリスの産婦人科医ステプトウ博士と研究者エドワード博士が初めて成功した技術です。この技術は、もともとは両側の卵管がつまっている場合に行われる方法ですが、その後、子宮内膜症、原因不明不妊、一部の男性因子などに対しても非常に有効であることがわかり、1980年代に世界中に広まりました。現在本邦においては、その適応に関して、日本産婦人科学会が、「本法は、これ以外の医療行為によっては妊娠成立の見込みがないと判断されるものを対象とする。」と規定しています。そのため、当院では、排卵タイミング指導や人工授精でも十分に妊娠が期待できる方に、体外受精を勧めることはしていません。

まず、奥さまには不妊ルチーン検査(前項参照)を受けていただきます。もちろん、これらの検査は、体外受精に至る治療経過において、ほとんどの方がすでに終えられていると思います。感染症(エイズ、B型肝炎、梅毒、C型肝炎)、血液型、貧血、クラミジアなどの採血検査、月経3日目や高温期における卵巣・脳下垂体あるいは甲状腺のホルモン採血、卵管疎通性検査(通気、子宮卵管造影)などです。さらに、採卵時の静脈麻酔に備え、胸部レントゲン、出血凝固系や肝機能・腎機能の指標となる項目についても採血が必要となります。また、ご主人様には、精液検査および感染症検査を行います。

一方、当院では体外受精学級(月に一度)を開いておりますので、ご主人とともに受講していただきます。そこでは、体外受精、顕微授精、胚凍結などへのご理解を深めていただくとともに、体外受精、顕微授精、胚凍結に関する同意書(用紙)をお配りしております。体外受精周期に入られる前に、奥さま・ご主人双方の署名捺印いただきました同意書を、戸籍謄本とともに提出していただきます

また、当院では、培養液として、(1)奥さまご本人の血清を培養液に添加して使用する場合と(2)精製されたアルブミンが予め添加されいる培養液を使用する場合があります。それぞれ、以下のようなメリット、デメリットがありますが、(2)を用いる場合には、予めヒトアルブミン添加培養液の使用に関する同意書も提出していただく必要があります。

(1) 奥さまご本人の血清をした培養液について

  • 従来の妊娠率はある(約15〜25%)
  • 長期培養(胚盤胞胚移植)を行うことはできない。
  • 抗精子抗体を含めた、受精や胚の培養に適さない血清もある。


(2) ヒトアルブミン添加培養液について

  • 胚のGradeは良くなるとされている。
  • 妊娠率は従来の妊娠率かそれ以上になる可能性がある。
  • 長期培養(胚盤胞胚移植)を行うことが可能。
  • 米国のFDA(米国食品医薬品局)において体外受精用の培養液として認可されている。
  • HIV、B型肝炎、C型肝炎などの感染症が陰性であることが確認された血液から、さらに加熱精製されたものである。
  • この培養液を使用して、母子感染の報告例は、今までのところ、国内外で存在しない。
  • 未知の感染症に対する感染の可能性、クロイツフェルドヤコブ病、狂牛病、未知の感染症・肝炎などの感染はきわめて低いと考えられるが、感染がおこることがないとはいえない。

国内での扱いは、体外受精の培養液は保険外診療に使用するものであり、薬事法の基準が適応されていないため、販売の際に「ヒト又は動物の治療に用いるものではありません」と明記されています。培養液の使用記録と製造番号は輸血製剤に準じて20年間慶應病院に保存します。

前述の通り、ロング法の場合は、スプレキュアを、予定月経の7〜10日前より(前周期高温期より)使用します。1日3回、両鼻腔内に噴霧します。そして、月経開始後3日目頃から、直前のホルモン検査の結果や卵巣内の小卵胞の数によって、FSH/hMGの注射の種類と量を決めて、FSH/hMGの注射を毎日開始します。経腟超音波で成熟卵胞(概ね直径が18mm以上)が複数個認められるようになれば、スプレキュアとhMGの使用をやめて、HCGに切り換えます。当院では、HCGは採卵予定日2日前の夜10時に注射します。これにより、卵子は成熟過程の最終段階を迎え、成熟卵胞は排卵に向かいます。排卵が起こる前、注射後約34〜36時間後に採卵を行います。すなわち、HCG注射の翌々日の朝8時から採卵を行うこととなります。

採卵は腟内を暖かい生理食塩水でよく洗浄した後、静脈麻酔(鎮痛剤・鎮静剤を点滴から投与)下、経腟超音波を見ながら、腟から卵巣内の卵胞に針を刺して卵を吸引・回収します。採卵した卵は、卵のまわりについている血液などの付着物をとるために培養液の中でよく洗って、37度のインキュベーターの中で前培養しておきます

一方、採卵当日9時に提出いただいた精液は、十分に液化した後、精子懸濁液を作成してスイムアップと呼ばれる方法で運動性の良好な質のいい精子のみを集めます。

次に集めた精子を卵の入っているディッシュに入れて受精をさせます。翌日、卵の周囲にある卵丘細胞をはがして、受精しているかどうかを判定します。この際、受精がうまくいっていると、多く場合2つの核(卵子由来の雌性前核と精子由来の雄性前核)が観察されます。そして、ディッシュを再びインキュベーターの中に戻して培養を続けます。2日間培養すると、受精卵は分割して2〜8分割した胚になります。その胚の中で良好な胚を1〜2個選んで、細いカテーテル(チューブ)の中に入れ、このカテーテルを子宮の中に挿入して、胚をごく少量の培養液とともに子宮の中にそっと戻します(胚移植、ET)。

体外受精後は、着床に向けて黄体機能を整えるために、黄体ホルモンであるプロゲステロンを、経口薬あるいは腟坐薬、または筋肉注射で投与します。卵胞ホルモンであるエストロゲンも補充するため、エストロゲンの貼り薬を使用することもあります。

胚移植(ET)10日、14日を目安に、妊娠判定を行います。着床が成立すれば上昇する血中ホルモンhCGを採血して調べます。

<顕微授精>

顕微授精には、透明体部分切開法(PZD)、囲卵腔内精子注入法(SUZI)、卵細胞質内精子注入法(ICSI)がありますが、現在は卵細胞質内精子注入法(ICSI)が盛んに行われています。

ICSIは、1992年ベルギーで初めてヒトに応用された方法で、卵細胞の中に直接針を使って、精子を一匹注入する方法です。ICSIでは、高度の乏精子症や精子無力症の症例、また精巣内にごくわずかしか精子がいない症例でも受精が可能となりました。

卵を採取した後は、ヒアルロニダーゼという酵素で、卵のまわりにある卵丘細胞を取り除き、卵を裸にします。次に、精子をPVPと呼ばれる精子の動きを少なくする粘張性のある液の中に混ぜて、その中でさらにインジェクションニードルで精子を不動化させた後、インジェクションニードルの中に精子を吸引して入れます。次にホールディングピペットで卵を固定して、インジェクションニードルを卵に刺して、精子を一匹注入します。

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<胚凍結・胚融解>

1回の胚移植で戻す胚の数は、2個までですので、残りの胚はご希望に応じて凍結保存します。また、採卵後卵巣過剰刺激症候群の発生が避けられないと予想される場合、子宮内膜が極めて薄い場合などにも胚凍結を行います。

胚はそのまま凍結すると、細胞内に氷晶が形成され、細胞が破壊されてしまうため、凍結保存剤の中に胚を入れて凍結を行います。当院では、多くの場合、培養3日目の8細胞期胚〜桑実胚あるいは5〜6日目の胚盤胞を、Vitrification法という急速凍結法で凍結しています。濃い濃度の凍結保存剤の中に胚盤胞を入れて、伝熱性の極めて高いクライオトップと呼ばれる小さな小さな金属板の上に胚盤胞を乗せます。それを液体窒素(-196℃)に直接浸けて急速に凍結します。

胚を解凍して使用する際は、37℃の凍結保護剤の入った培養液の中にクライオトップを直接浸して、急速に融解し、続いて徐々に凍結保存剤を薄めていきます。

凍結により硬くなった透明帯には、レーザーを用いて穴を開け(Assisted Hatchingの項を参照)、より着床しやすい状態にします。


<胚盤胞培養>

通常、胚移植は採卵後2〜3日目に行っていますが、採卵後5〜6日目まで胚を着床直前の胚盤胞まで培養してから子宮腔内に移植する方法を胚盤胞移植といいます。

着床直前の胚盤胞を子宮腔内に移植することで、より生理的に近い状態の胚を戻すことができ、着床率が上がります。着床率が上がることで、移植する胚の数を1個までに減らすことも可能で、多胎妊娠の予防にもつながります。しかし、胚が胚盤胞に達する前に分割を停止してしまい、得られる移植可能胚(胚盤胞)が少なくなってしまう場合もあります。現在では、培養液が改善され、培養3日目までの培養液とは組成の違う培養液を使用することにより、胚盤胞にまで至る率も向上されてきています。

当院では、症例に応じて、採卵後2〜3日目に1度目の胚移植を行い、残った胚を胚盤胞まで培養し、採
卵後5〜6日目に再度胚盤胞を移植することも行っています(二段胚移植)。


<透明帯開口法(Assisted Hatching)>

胚移植の前に透明帯に穴を開けて着床しやすくする方法です。
当院では、レーザーを用いて、ピンポイントで胚を損傷することなく、透明帯を菲薄化させる、あるいは透明帯に穴を開けています。