学問を志す若い人びとに宛てたパブロフの手紙

学問に身を捧げている祖国の若い人たちに、私は何を望むと思いますか。

一歩一歩ゆっくりすすむこと、まず第一には、――徹底。 有益な研究をするために必要なこの条件について、私は興奮せずに話すことはできません。徹底、徹底、どこまでも徹底。研究にあたっては最初から徹底ということに慣れねばなりません。手近の一歩をわがものとせぬうちは、決して次のものに手をつけてはいけません。そして臆説を斥けねばなりません。臆説はシャボン玉のように見る眼には美しいが、所詮破裂して、混乱の他には何ものをも残さないものです。

 節制と忍耐に慣れなさい。研究においては、苦しい努力をするようにしなさい。事実をまず見、次にくらべ、そして集めなさい。鳥の翼がどんなに完全であっても、空気の助けがなければ、鳥は飛ぶことはできません。事実というもの、それは学者にとっては空気なのです。これなくして、君たちは決して飛び立つことはできません。これなくしては、君たちの「学説」は空しい努力になってしまいます。  しかし、学び、実験し、観察しつつ、事実の皮相に止まることがないよう努力しなければなりません。事実の記録係になってはなりません。その発生の秘密を洞察するように試みなさい。事実を支配している法則を根気強く探しなさい。

 第二には――謙譲です。何でも知っているなどと夢にも考えてはいけません。よしんば人びとが、君たちを高く高く評価しようとも、つねに「私は何も知っていない」と自分にいいきかせるだけの男らしい気持ちが必要です。傲慢のとりこになってはいけません。傲慢にとらわれると、賛成すべき場合でも、自分を固執するようになるし、有益な助言や親切な援助をも、断るようになってしまいます。また方法に客観性を失う結果にもなります。

 第三には――情熱です。学問というものは人間からその全生命を要求するものです。このことを忘れてはいけません。たとえ、生命が二つあったとしても十分ではないでしょう。学問は一層大きな努力と、情熱を要求するものですから。  私たちの祖国は、大きな自由を学者にあたえています。そしてまた、極端だと思われるくらい十分に、学問を生活にしみ込ませています。わが国の若い学者の状態について、何を話すべきでしょう。これですべてがはっきりしているではありませんか。学者には多くの便宜が与えられています。と同時に、彼等には、祖国が望んでいる大きな期待を果たすという名誉ある義務があるのです。

ドイツ語文(PDFファイル) パブロフ学説(ストロガーノフ他著)岩崎新書54.訳本(東大ソ医研) 1956年

露語原文と日、独、英訳対比と写真

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最終更新日: 2010年12月10日