エー Henri Ey 1900〜1977 川村光毅のホームページへ
“精神医学事典”、加藤正明、保崎秀夫ほか編集、1975,弘文堂 より(その後1993に新版)引用

現代フランスの精神医学者。1935年から1970年までボンヌヴァル精神病院医長をつとめ、ドレー J. Delay, バリュック H. Baruk, ラカン J. Lacanらとともにフランス精神医学会の重鎮である。フランスの代表的精神医学雑誌「精神医学の進歩」Evolution Psychiatriqueをミンコフスキー E. Minkowskiとともに第2次大戦後復刊し、その編集主任である。ジャクソン J. H. Jacksonの神経機能の進化と解体の理論を精神医学に適用し、自己の立場を「新ジャクソニズム」 (neo-jacksonisme)という。さらに彼によると精神疾患とはその原因においてつねに器質的であるとともに、その病的発生においてつねに心理的である。つまりその病因の器質性とその病的現象の心理性、力動性のゆえに彼の説は、「器質・力動論」(organo-dynamisme)といわれる。エーの精神医学的体系は伝統的精神医学のそれとはかなり異なっており、彼にとっては外因性―、内因性−、心因性精神病などの区別は重要ではない。重視すべきは急性精神病と慢性精神病の区別であり、前者は意識野の解体の諸段階として横断的にとらえられ、後者は人格の病理、あるいは自我意識の構成障害として縦断的にとらえられる。彼の体系はライフワークともいうべき「精神医学研究」Etudes psychiatriques 3巻(1948〜1960)にまとめられている。また「意識」 La conscience (1963, 1968)ではジャクソニズムに加えて現象学的傾向が濃厚に認められる。ボンヌヴォルにたびたび内外の代表的学者をあつめて、精神医学の中心問題についての懇話会を主催している。「医学百科辞典」Encyclopedie medicochirugicaleの「精神医学」全3巻は彼の執筆を中心に編まれている。ボンヌヴォルを退いてからも「研究」の続刊が予定されており、また「幻覚」Traites des Hallucinationsの大著も最近刊行された。
(保崎秀夫)